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第三十四話 消えた光

Author: marimo
last update Last Updated: 2025-12-03 09:45:31

夜の帳がゆっくりと降りるころ、柊 蓮はひとり車のハンドルを握っていた。

 フロントガラス越しに流れる街の灯りが、滲んで見える。

 街は華やかに輝いているのに、彼の心の中だけが、ひどく暗かった。

 ――玲。

 その名を心の中で呼ぶたび、胸の奥が痛んだ。

 昨日の夜、あの瞬間。

 玲の顔に浮かんだ涙が、まぶたの裏から離れない。

 あの涙は怒りでも、失望でもなかった。

 もっと深く、もっと静かに――

 まるで心の奥の何かが壊れてしまったような、そんな泣き方だった。

 (俺が悪かった。どんな言い訳をしても、もう信じてもらえないかもしれない)

 ハンドルを握る手に力が入る。

 指先が白くなるほど、強く握りしめていた。

 それでも、蓮は行かずにはいられなかった。

 どれほど拒まれても、誤解されても、

 彼女に会って、謝って、伝えたかった。

 「もう一度、あの頃のように笑ってくれたら……」

 その願いだけを胸に、蓮は夜の街を走らせていた。

 フロントガラスの外、信号が赤から青に変わるたび、

 玲の笑顔が一瞬、幻のように浮かんでは消えた。

 時計の針が八時を指したころ、

 蓮は「クリスタルローズ」の入るビルの前に車を停めた。

 見慣れた場所。

 玲と何度も笑い合ったあの夜の灯りが、彼を迎えてくれるはずだった。

 しかし、街の喧騒の中に立つそのビルは、

 どこか違う――

 見慣れたはずのネオンが、妙に冷たく見えた。

 蓮はゆっくりとエントランスを抜け、無意識のようにエレベーターのボタンを押した。

 “12”の数字が静かに光る。

 狭いエレベーターの中、上昇音が耳に響くたび、心臓が高鳴った。

 (会える。ちゃんと話そう。信じてもらえなくてもいい、ただもう一度――)

 そう願うように目を閉じる。

 チン――と軽い音が鳴り、扉が開いた。

 しかし、出迎えてくれるはずの華やかなピアノの旋律も、

 花の香りも、どこにもなかった。

 廊下は暗く、人の気配がまるでない。

 空調の低い音だけが、冷たく響いている。

 いつもなら、笑い声やグラスの音、

 玲の柔らかな声が廊下に溶けていたはずだ。

 だが今、そこにあるのは――無音。

 ネオンの反射が床に歪んで映り、蓮の影を細く引き伸ばしていた。

 (……おかしい。どうして、こんなに静かなんだ)

 不安が
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